1. HOME
  2. コラム
  3. 【体験・インタビュー】日本の伝統的な修繕技法・手仕事を通して、つなぐ大切さ
サムネイル
コラム

【体験・インタビュー】日本の伝統的な修繕技法・手仕事を通して、つなぐ大切さ

日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア・KÓMERU編集長 坊所が金継ぎ工房「つぐつぐ」で、ワークショップを体験しました。同社代表で金継ぎ講師の俣野由季さんに金継ぎを通じて届けたいサステナブルへの想いを伺いました。

金継ぎとは

欠けた酒器と器、金継ぎした器

金継ぎ(きんつぎ)とは、割れたりひびが入ったり、欠けた器を漆を用いて修復し、継いだ部分を金や銀の粉で装飾する伝統的な漆芸(しつげい)技法のこと。
漆による器の修理は、古くは縄文時代までさかのぼるとも言われており、室町時代に茶の湯文化の広がりとともに芸術的価値も高まったとされています。

いざ、金継ぎ体験

黒漆で欠けた箇所を補修した器と金継ぎに使用する道具のセット

今回、坊所編集長は「1日完結 金継ぎワークショップ」を体験!
(※本格金継ぎの最後の工程を体験。)

「つぐつぐ」のワークショップでは、器を扱う業者や一般の方が取り扱い中に破損させてしまった器を譲り受けて使用しています。
「捨てられるはずだった器を自分の手で再生できるので、アップサイクルを実感できますね」と坊所編集長も嬉しそう。

金継ぎ体験の流れ

今回の体験までには、黒漆で、割れやヒビ、欠けを埋める地道な作業を繰り返すため1,2ヶ月工程がかかります。
最後の工程を体験する為に、まずは実際に金継ぎをする器と使用する道具を準備し、本日の工程を説明頂きましょう。
(※「つぐつぐ」にて準備頂きます)

金継ぎでは、漆を使用するのですが、これがとても重要になってきます。
「漆は、木の樹液から作られています。現代は漆を使う機会が減少し、木から漆を採取する“漆掻き”の職人さんの数も減っています。金継ぎを盛り上げて、少しでも後押しできれば嬉しいです」(俣野さん)

木と漆

では、早速体験してみましょう。

①手袋を着用

漆にはウルシオールという成分が含まれており、直接触れるとかぶれることがあるので、必ず着用します。

②金継ぎする器や筆、漆を広げるアクリル板などをエタノールで拭く

手袋を装着しながらエタノールで器を拭く

漆は油分があると乾かない性質のため、丁寧に拭きとることが大切です。

③アクリル板にチューブに入った漆を出し、へらで広げる

アクリル板に漆をへらで広げる

濃いベージュだった漆の水分が蒸発し、色が濃くなり粘度も高まっていきます。

編集画像_漆の色味の変化

実は、漆のベストシーズンは高温多湿の夏場。
「江戸時代などは、夏場に漆を塗る職人さん神社仏閣などを修繕し、仕事が減る冬場の副業として金継ぎ行っていたそうですよ」(俣野さん)


現在は、夏場の環境を再現した、「室(むろ)」(または、漆風呂)と呼ばれる場所で漆を乾かし、保管します。
※保管状況によって期間は変わるが、割れの接着やヒビを漆で固める作業で最低1週間。欠けを埋めた時は2-3日保管。

「つぐつぐ」には、おしゃれなキャビネットのような漆室が完備されています。(温度は約20-30度、湿度は70-85%)
実は、ダンボールに雑巾等の布を入れて、冬場はホットカーペットの上に置くことで「漆室」を自宅で作る事が出来るので、自宅でも簡単に保管する場所を作れるんですよ。

室の前で室温系を持つ女性

④水を含ませた耐水ペーパーで器を継いだ黒漆を研ぐ

耐水ペーパーで黒漆を研ぐ

艶があった黒漆がマットになるまで削るのがコツ。途中、ティッシュなどでふき取りながら確認します。

「金継ぎはとても時間がかかる技術。黒漆で、割れやヒビ、欠けを埋める地道な作業を繰り返すため、1日完結のワークショップで体験できる状態に持って行くまで1~2か月を要します」(俣野さん)

⑤水分が飛んであめ色になった漆から赤色を作っていく

アクリル板の上に漆と弁柄


漆は水分が飛んでことにより、あめ色になります。あめ色になった漆の量に対して、7割程度の弁柄(酸化鉄)を加えて赤色を作っていきます。

古代の洞窟壁画にも用いられてきたベンガラ。接着に使う漆は黒色のため、赤色にしたほうが見分けやすく塗り残しを防げます。また、金粉は赤の上に蒔いた方が発色もいいのだとか。

⑥ベンガラを混ぜた漆を、筆全体に馴染ませ黒漆の上に薄く塗る

筆で黒漆の上をベンガラを混ぜた漆を塗る

塗るときは遠くから手前に、厚塗りにならないよう気を付けます。


「ちゃんと塗れていますか?繊細な作業ですね」(坊所編集長)

漆を手に持つ女性とその女性を見上げる女性

最後は塗り残しがないかを確認しながら作業を進めます。
細かい作業なので、拡大鏡付きのライトを使ってチェックを行ったりもできます。

拡大鏡を使いながら、漆ぬりをする女性

⑦金粉をシルク(絹)でできた真綿で乗せていく

金粉が紙の上に広がっている

シルクの繊維跡が付かないよう、優しく、ほんの少し触れる程度でOK。

⑧室で乾燥させたら完成。

金継ぎされた器3個

※体験当日に漆は乾かない為、後日引き取りまたは郵送となります。(別途送料負担)

金継ぎとサステナブル

ワークショップを通じて打ち解けた2人。対談は、男性のイメージも強い伝統技術の世界・金継ぎに、なぜ俣野さんは飛び込んだのか…坊所編集長のそんな疑問から始まりました。

対談する女性2人

金継ぎとの出会い

坊所編集長(以下、坊所) なぜ、金継ぎに興味を持ったのですか?

俣野由季さん(以下、俣野) 私は海外生活を含め、14,5回も引越しをしていて、そのたびに大切なものだけを選りすぐり、どんどん身軽になっていきました。5年ほど前、海外留学時に購入した大事な食器をうっかり割ってしまい、なんとか使い続けられる方法はないかとインターネットで検索したところ、生まれて初めて金継ぎという言葉を目にしたんです。

坊所:そうだったのですか。実は、私の父は趣味で金継ぎをやっていました。職人ではないので見た目はそれなりでしたが(笑)、今思うと器を大事にする家庭だったんだなと。

俣野:お父様が直した器を使うなんて、素敵ですね。

坊所:小さいころは、「電子レンジにかけれない食器」くらいのイメージでしたが。そもそもなぜ、俣野さんが職業にしようと思ったのですか?

俣野:金継ぎされて戻ってきた器を見て、「素敵だな」と思ったのがきっかけです。ちょうどそのころ、製薬会社に勤務するかたわらMBA(経営学修士)取得を目指し、大学院で学んでいました。カナダから教えに来ていた先生が、「日本に来るたびに金継ぎ教室に通っている」とおっしゃったのを聞いて、自分も習得したいなと。MBAは、卒論で経営計画書を出す必要があるので、金継ぎの会社を起業する計画書を提出しました。「つぐつぐ」は、卒論に従って興した感じですね。

坊所:海外の先生がきっかけとは驚きですね。海外ではどんな点が人気なのですか?

俣野:日本文化が好きな欧米の方を中心に、10年ほど前から金継ぎは人気ですが、サステナブルというよりは美術的視点で魅力を感じているように感じます。また、修理などに集中することで精神的な穏やかさにつながる、メディテーションの一環と捉える人もいるようです。

金継ぎされた器

“おうち時間”が後押しに

坊所:会社設立は2020年3月で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと重なりますね。

俣野:想定外の事態に周りから心配されましたし、私自身も不安はありました。でもスタートしてみると、おうち時間が増え、暮らし方を見直す方が多くなったことが後押しになったのかなと感じます。

坊所:確かにコロナ禍を境に、自分の趣味に時間を多く充てる人も増えましたね。

俣野:料理をする方が増えたのも大きかったと思います。Instagramに金継ぎの器で手料理の写真をアップする人が注目され、若い世代にも「かっこいい」と認知してもらえるようになりました。

坊所:料理を作るようになると、器も気になりますよね。サステナブルへ関心が高まったことも好影響が?

俣野:はい。もともと卒論でもSDGs(持続可能な開発目標)は頭にありました。ただ闇雲に設けるのではなく、社会に貢献しながら事業を展開したいと思っていたので、そうした観点からも金継ぎは私にぴったりなんです。

窓際に並ぶ金継ぎが施された多くの器

金継ぎの魅力を伝えたい


坊所:とはいえ、安定した生活を捨て起業するのは勇気が要ること。俣野さんを惹きつける、金継ぎの魅力について教えてください。

インタビューに答える女性

俣野:壊れたものを修理するだけでなく、「傷跡をあえて活かす」ところがいいなと。西欧的な発想では、傷跡は残らないように直すと思うんですが、お茶の文化に息づく(あえて不完全な茶器を愛でるなど)「わびさび」にも通じるような…金継ぎのそういう逆転の発想みたいなところがかっこいいし、かわいいなと思いますね。

坊所:「つぐつぐ」におじゃまする前は、高齢の職人さんが山里で黙々と作業しているイメージだったので、金継ぎをかっこいい、かわいいという視点は新鮮です。

俣野:おっしゃる通り、伝統技術である金継ぎは、少し敷居が高い感じがしますよね。私はそのハードルを下げて、日常生活に溶け込める気軽なものにしたいんです。そのためには、“顔が見える”ことが大事だと思い、店舗を通りから見える1階に開きました。

坊所:明るく親しみやすい雰囲気だなと思いました。職人さんが、若い女性ばかりというのも驚きでした。

俣野:いま、20代から30代の女性8名で店を切り盛りしています。当店は本金継ぎという手間のかかる技法のため、6か月近くお待ちいただくのですが、ありがたいことに月に約100件の修理のご依頼をいただいています。

工房内で金継ぎをする女性

坊所:さまざまな伝統技術で、後継者不足から衰退していくイメージがあるので、心強いですね。

俣野:経営者として、そこを頑張りたいと思っています。起業前に、全国各地の著名な金継ぎ職人さんにお話を伺いましたが、皆さん後継者不足に悩んでいました。「つぐつぐ」では、働きながらスキルを上げてもらえる仕組みを作り、やる気や楽しみを感じながら働ける環境づくりを心がけています。

金継ぎキットにこだわるわけ

坊所:修理のほか、体験や教室、金継ぎキットの販売なども手がけているのはなぜですか?

インタビューをする女性

俣野:実は、「つぐつぐ」は金継ぎキットから始まっているんです。誰かにプレゼントしたくなるような、“世界で一番カッコいいコンパクトなキットを作ること”がそもそもの起業動機。そのために、たくさんの方にご協力いただいています。たとえば、竹へらは私の師匠が1本ずつ手で削って作ってくださったもの。アクリル板は友人にカスタムメイドしてもらっています。

坊所:言葉の端々から金継ぎへの愛が伝わってきます。身近に「つぐつぐ」のようなお店があると、大事な器を次世代に引き継げていいなと思いました。

俣野:ありがとうございます。金継ぎを依頼してくださる方の中には、親から譲り受けた形見という方も結構いらっしゃいます。そうやって思い出ごとリレーユースできるのも金継ぎのよさだと思います。

金継ぎキット

金継ぎした器のトリセツ

坊所:手間ひまかけて金継ぎした器を、長く使うためのコツは?

俣野:漆器と同じ扱いをするといいですね。食器用の洗剤で洗うときは、ごしごし洗うと金が削れるので柔らかいスポンジなどで優しく洗ってください。坊所さんがお父様から言われたように、電子レンジはNGです。食器洗い機も使わない方がいいと思います。

坊所:そういえば、実家でもだんだんと金が剥げていたような…。

俣野:大事に使っているなら、それも味わいになりますよ。そうそう、「つぐつぐ」では、天然素材を用いた伝統的な金継ぎの技法なので安心安全ですが、近年見かける簡易金継ぎは、ケミカルな接着剤を使っていることも多く食品衛生法を通っていません。そのため、食器ではなく家財という扱いになるので注意が必要ですね。

坊所:自分が使う物に、どういうストーリーがあるかを知ることは大事ですね。

俣野:そう思います。海外の方に金継ぎが人気だと話しましたが、その一方で本物の金継ぎをご存じないなと感じることも多くて。これからもっと国内外で本物の金継ぎを伝えていきたいと改めて思っています。

坊所:金継ぎが身近になると、器を捨てる頻度も減りそうですよね。先ほど、店内で金継ぎされた人気カフェチェーンのマグカップを見ましたが、かえっておしゃれになっているなと感じました。

俣野:金継ぎすることで、ユニークで個性的な一品になることも魅力だなと思います。そうした金継ぎの奥深さを、より広く知っていただけるよう頑張りたいですね。

窓際に並ぶ、金継ぎが施された器2点

【体験を通じて】編集長後記

父が食器好きだったしていた事もあり、幼い頃から金継ぎされた食器が身近にあったので金継ぎという物の存在自体は知っていたものの、深い知識はありませんでした。

今回は金継ぎの最終行程を体験させて頂いたのですが、伝統的な金継ぎがこんなにも行程が多く、時間がかかる物だとは知りませんでした。

つぐつぐさんの工房は若い女性従業員の方が多く、アットホームな雰囲気で優しく丁寧に教えて頂き安心して作業に没頭する事が出来ました。

細かい作業好きとしてはかなり熱中できて、すごく楽しかったです!お気に入りの食器を自分で直す事が出来る様になるとより愛着もわきますね。


今回の体験を通して、大切な食器を割ってしまった時、捨ててしまうだけでなく金継ぎという選択肢が私の中で増えました。

また機会があれば全行程をマスター出来るコースも受けてみたいと思いました。

金継ぎをする女性

取材協力店

店舗外観

株式会社つぐつぐ
本社:〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿2-21-2 akikito apt. 1階
東京金継ぎつぐつぐ教室恵比寿本店:同上
TEL:03-6879-0940
定休日:基本休みなし

東京金継ぎつぐつぐ教室浅草店:〒111-0034東京都台東区雷門1-1-2 1階
TEL:03-5246-3476
定休日:月曜日、水曜日

お問い合わせ:info@kintsugi-girl.com


(文・キツカワユウコ)

profile
KÓMERU編集長 坊所
サムネイル: KÓMERU編集長 坊所
日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア「KÓMERU」の編集長。 賢くオシャレにサステナブルを楽しむ方法を日々発信中。 編集長の傍ら、KOMEHYO SHINJUKU WOMENにも勤務し、ハイブランドに精通したベテランスタッフとして活躍中。